気づきと冒険から生まれる変革。 ゴリラ社会に見る組織改革のヒント
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自然界には、組織の未来を考えるヒントが隠されている。前編では、ゴリラ社会に見られる信頼関係を基盤としたリーダーシップと、適切な組織規模の重要性について考察した。後編では、さらに踏み込んで、環境変化への適応力と組織の柔軟性…
自然界には、組織の未来を考えるヒントが隠されている。前編では、ゴリラ社会に見られる信頼関係を基盤としたリーダーシップと、適切な組織規模の重要性について考察した。後編では、さらに踏み込んで、環境変化への適応力と組織の柔軟性について探っていく。自然界の叡智から現代の組織運営が学ぶべきことは何か。山極氏との対話を通じて、組織変革のヒントを探る。
山極 壽一 (やまぎわ・じゅいち)
総合地球環境学研究所 所長、理学博士。ルワンダ共和国カリソケ研究センター客員研究員、日本モンキーセンター研究員、京都大学霊長類研究所助手、京都大学大学院理学研究科助教授、同教授、同研究科長・理学部長を経て、2020年まで第26代京都大学総長。人類進化論専攻。屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地で野生ゴリラの社会生態学的研究に従事。 日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、日本学術会議会長、総合科学技術・イノベーション会議議員を歴任。2025年国際博覧会(大阪・関西万博)シニアアドバイザーを務める。南方熊楠賞、アカデミア賞受賞。著書に『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』(2020年、家の光協会)、『スマホを捨てたい子どもたち―野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』(2020年、ポプラ新書)、『京大というジャングルでゴリラ学者が考えたこと』(2021年、朝日新書)、『猿声人語』(2022年、青土社)、『動物たちは何をしゃべっているのか?』(2023年共著、集英社)、『共感革命-社交する人類の進化と未来』(2023年、河出新書)など多数。
平尾 譲二(AlphaDriveグループ執行役員・POT Institute研究所長)
東京工業大学工学部建築学科卒業。株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社後、インターネットマーケティング局においてSEO・SEMの全社エバンジェリストを務めたのち、じゃらんnetの集客戦略全般を担当して全社イノベーション賞を受賞。2011年に社内新規事業制度「NewRING(現Ring)」でグランプリを受賞後、一貫して新規事業開発に携わる。新規事業開発プログラム「Recruit Ventures」を立ち上げ、事務局長兼インキュベーションマネジャーとして風土醸成・案件募集から事業育成・人材育成までを統括。約2000のエントリープロジェクト、約60チームの事業検証に携わり、事業開発と事業開発人材としてのスキルアップの両面を支援。一貫して新しい価値の創造、特に再現性の高い仕組みづくりに取り組んだ経験をベースとして、2018年8月、株式会社アルファドライブ取締役に就任。2019年11月、保有全株式を譲渡してユーザベースグループ入りし、NewsPicks for Businessの事業開発を兼任。2023年1月より、AlphaDrive/NewsPicks 専門役員 POT Institute 研究所長に就任。
小谷 奉美(POT Institute 主席研究員)
株式会社Seize The Day 代表取締役 / POT Institute 主席研究員
コロラド大学デンバー校ビジネス学部金融学科卒
インテル株式会社で社長補佐官として、役員と共に経営戦略、事業の方向性、コミュニケーション戦略の策定から発信まで一貫して取り組むなど幅広い責務を遂行。2016年に株式会社Seize The Dayを立ち上げ、これまでの豊富な職務経験を活かし、これまでにFortune500企業を含む世界20か国以上の企業において、200名を超える経営トップや役員にエグゼクティブ・コーチングを行い、さらにリーダーシップトレーナーとして、3000人以上のリーダーに対しマインドセット変革など、リーダー育成を行う。また、システムコーチングの手法を用い、グローバル企業の組織開発コンサルティングも手がけている。さらに、2021年よりPOTに参画し、主席研究員としても活動中。公認心理士として心理学の知見を活かしパーソナリティ心理学の研究を行う。人の特性や組織文化の評価に関するアセスメントの開発から製品化まで一貫して手がける。また、人材育成・組織開発への応用に向けた研究やプログラムの開発も行なっている。
(前編はこちら)
中枢機能に依存しない 環境変化に強い組織とは
平尾 従来型の中央集権的な組織では、環境変化のスピードについていけなくなってきているように思います。山極先生は長年、自然界における適応の仕組みを見てこられましたが、現代の組織運営にどのような示唆が得られるでしょうか?
山極 人間は言葉を持つことで「物語」をつくることができるようになりました。物語は因果関係でできています。何かが起きたとき、その原因を探り、そこから未来を予測する。そして、その予測に基づいて計画を立てる。これが人間社会の特徴です。
ゴリラたちは違います彼らは相関関係で生きています。例えば、ある場所で危険な生き物に出会った時、「なぜここにいるのか」とは考えません。単に「ここには危険がある」という体験として記憶し、次からの対応に活かすだけです。
小谷 組織運営においても、同じような傾向があるのでしょうか?

山極 はい。現代の組織は、人間の中枢機能のように、全ての情報を中央に集めて判断しようとしています。でも生物界を見てみると、中枢機能を発達させた哺乳類よりも、末梢神経を発達させたイカやタコの方が、環境変化への適応力が高い。彼らは瞬時に色を変えるなど、状況に応じて柔軟に対応できるのです。
ゴリラの子育ても示唆に富んでいます。彼らは子どもに「教育」はしませんが、「学ぶ」機会を与えます。新しい環境に連れて行き、そこで自分の五感を使って、どう対処すべきかを学ばせる。これが本来の「学び」です。
平尾 現場に権限を委譲して、自律的な判断を促すということでしょうか。
山極 その通りです。例えば災害時のライフラインも、中枢である大きな発電所や水道局に依存するのではなく、地域ごとに自律的なシステムを持っていれば、迅速に対応できます。組織も同じで、中枢機能への過度な依存から脱却し、現場がそれぞれの状況に応じて柔軟に対応できる仕組みを作ることが重要です。
「おもろい」は共感と行動を生む 遊び心から始まるイノベーション
小谷 先生は京都大学総長も務められましたが、就任時に掲げたキャッチフレーズは「おもろいことをやりましょう!」でしたね。
山極 関西の「おもろい」という言葉には、実は深い意味があります。単に「面白い」で終わらない。「おもろいやん」と言われたら、それは「ほなやってみなはれ」という後押しの意味も含まれている。つまり、相手の発想を認めると同時に、自分も一緒にやろうという意思表示です。
これは新しいアイデアや挑戦を生み出す上で、大切なポイントです。しかし、多くの日本企業では、「空気を読む」ことが重視され、新しいことを始めようとすると、「前例がない」とか「リスクが高い」といった声が上がりやすい。この文化が、イノベーションの障壁になっているように思います。
では、どうすれば新しい発想を生み出せるのか。そこで重要になってくるのが「パラレルワールド」という考え方です。僕の場合は、人間社会を見るときに、ゴリラの社会やアフリカの部族社会など、異なる世界の視点を持っています。そうすると、当たり前だと思っていたことが、実は特殊な慣習だったということに気づく。
新しい発想というのは、そういう異なる世界の視点を持つことから生まれてくるものです。これは、フィクションではダメで、実際に体験したリアルな世界でなければいけません。

平尾 何か変革を起こすには型破りな発想が必要ですが、そういった発想が受け入れられにくい現実もあります。どうすれば、型破りな発想や人材が受け入れられる組織文化を築くことができるでしょうか?
山極 会社の中にも「遊び」の空間が必要です。最近では休憩時間やティータイムを大切にする企業が増えていますが、単にコーヒーを置いておくだけでは不十分。美味しいお菓子を用意したり、時にはワインを飲んだり。そういう場で自由な会話が生まれます。
重要なのは、そういった「遊び心」のある時間や空間を、単なる無駄とは考えないことです。遊びや休息の中から、新しい発見が生まれることもある。人間社会だって、もう少しそういった余白を大切にしたらいいと思います。
「冒険せよ、しかし生還せよ」
異なる世界との出会いが人を育てる
平尾 新規事業の立ち上げの支援をしていると、答えのない課題に直面したとき、途端に戸惑ってしまう人が多いと感じています。これは教育のあり方とも関係があるのでしょうか?
山極 教育というと、何か正解があって、それを教えて身につけさせるというイメージですが、それでは今の時代に対応できません。ゴリラの社会を見ていると、彼らは子どもに教育はしませんが、新しい環境で体験を重ねることで学ばせています。そこから得た経験を次の状況に活かしていく。
実は、人類も本来はそういう学び方をしてきました。狩猟採集時代、子どもたちは自然の中でさまざまな体験を重ね、環境の変化に対応する力を養っていました。それが農耕社会、さらに産業革命を経て、決められた内容を教え込むような教育になってしまった。
それでも、私が子どもの頃は、まだ学校は遊び場でした。今のように、テストで測られることはなく、運動が得意な子は運動で、絵が上手な子は美術で、音楽に秀でた子は音楽でと、それぞれが自分の得意分野で輝くことができました。しかし今は、学力が最重視され、難関校への進学が目標になっている。それではダメです。遊び心と「おもろい」発想がいかに大切かを、伝えていかなければなりません。